迂回貿易
トランプ大統領が発表した相互関税で、比較的高い関税率を課せられた地域があります。”東南アジア” 特に CLMVの4カ国 カンボジア49%、ラオス48%、ミャンマー44%、ベトナム46%です。第一次トランプ政権以降、様々なリスクを回避する為に各国の製造業者が中国から工場を移転させた国々ですが、所謂 ”迂回貿易”により、米国への輸出が伸びました。
迂回貿易とは、第三国を経由する貿易ですが、単純にAD(アンチダンピング)/CVD(補助金相殺)関税措置を回避する為だけではなく、政治情勢や雇用情勢又は規制を回避する目的など、様々なケースがございます。
製造拠点はそのままで、第三国を経由する場合(トランスシップメントや瀬取りではございません) 問題になるのが、”原産地証明”です。原産地認定基準に関して詳しくは、JETROホームページ 原産地認定基準の「実質的変更を加える製造・加工 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-011216.html
を見ていただきたいのですが、
「実質的な変更を加える加工または製造」とは、原則として、関税定率法別表(関税率表)の「項」(4桁の番号)、すなわち、HS番号の4桁の変更を伴う加工または製造とされています。たとえばA国のとうがらしの果実(0904)を原料にしてB国で香辛(0910)に加工、製造されれば「実質的な変更を加える加工、製造」とみなされます。
輸送または保存のための乾燥、冷凍、塩水漬けその他それに類する操作、単なる切断、選別、瓶、箱その他これらに類する包装容器に詰めること、改装、仕分け、製品またはラベルその他の表示を貼り付けもしくは添付すること、非原産品の単なる混合、単なる部分品の組み立て及びセットにすること並びにこれらからなるような微少な加工は、これには該当しません。とあります。
145%のトランプ関税を回避する為に、相互関税が比較的低い第三国を経由して、米国に輸出する事を考えておらえる中国企業も多々おられるのではないでしょうか? 仮に迂回地が日本であった場合、上記のようなHSコードの変更を伴わない軽微の変更では、原産地偽装になりますし、貿易額の急激な増加は、結果として米国対日貿易赤字増加へ繋がってしまう為、在職期間中に相互関税率の見直しを通告されるリスクもあります。また、知らずに実行されて品質上の問題が出た場合、結果として日本ブランドの価値を棄損する被害が出てくる可能性がございます。一時しのぎに過ぎず、どちらにとっても良い方向にはなりません。生産拠点が日本に回帰したとしても、労働人口減少、物流コストアップの中で仕事が継続してこなせるのか疑問です。アメリカの貿易黒字国で関係が良く、距離が近くて労働人口も多く、関税率の比較的低い第三国に生産拠点の一部をうつすのも1つの方法かと思います。ブラジルあたりでしょうか?(エタノールや鉄鋼・アルミがアメリカとの交渉の焦点になっているようですが、)ただし、迂回貿易による貿易不均衡は、同じような考えの指導者が出てきた時、今回のような事が繰り返されると考えておいた方が良いでしょう。
尚、令和6年11月26日に財務省から出ている 不当廉売関税に係る迂回防⽌制度の創設(令和7年度関税制度改正要望)によると、G20のうち迂回防止制度を有していないのは日本とインドネシアのみのようです。(2024年9月 経済産業省調査時点 韓国は2025年1月創設予定)